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最高裁判所第三小法廷 平成5年(オ)1747号 判決 1996年11月12日

上告人

高橋安明

佐々木徹

被上告人

四国電力株式会社

右代表者代表取締役

山本博

主文

上告人高橋安明の上告を棄却する。

上告人佐々木徹の上告を却下する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人高橋安明の上告理由について

一  原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1  被上告会社の株主である上告人高橋は、平成二年六月二八日、被上告会社の第六六回定時株主総会(以下「本件株主総会」という。)に出席するため、本件株主総会の会場である被上告会社本社ビルの前で、開門前の早朝から、被上告会社の原子力発電所に関する経営方針に反対する他の株主と共に列に並び、午前八時の開門と同時に本社ビルに入り、受付手続を済ませて会場に入場した。

2  被上告会社は、昭和六三年一月及び二月、原発反対派の者に本社ビルを取り囲まれたり、深夜数時間、ビルの一部を占拠されたことがあり、更に平成二年三月に結成された「未来を考える脱原発四電株主会」等の差出人から、本件株主総会の前に一〇〇〇項目を超える質問書の送付を受けていたことなどから、本件株主総会の議事進行が妨害されたり、議長席及び役員席を取り囲まれたりするといった事態が発生することをおそれ、被上告会社の株主である従業員ら(以下「従業員株主ら」という。)にあらかじめ指示し、本件株主総会当日、従業員株主らをして午前八時の受付開始時刻前に会場に入場させ株主席のうち前方部分に着席させた。

3  会場には株主席として約二三〇の椅子が並べられていたが、上告人高橋が会場に到着した時には従業員株主らが既に株主席の最前列から第五列目までのほとんど及び中央部付近の合計七八席に着席していた。上告人高橋は、前から第六列目の中央部付近に着席した。

4  上告人高橋は、本件株主総会において、議長から指名を受けた上で動議を一度提出した。

二  上告人高橋の本件請求は、本件株主総会の会場において希望する座席を確保するために被上告会社本社ビルの近くに宿泊して本件株主総会当日に早朝から入場者の列に並んだが、被上告会社から従業員株主らとの間で前記の差別的取扱いを受けたことにより、希望する席を確保することができず、これによって精神的苦痛を被り、更に宿泊料相当の財産的損害を被ったと主張して、被上告会社に対し、不法行為に基づく損害賠償を求めるものである。

三 株式会社は、同じ株主総会に出席する株主に対しては合理的な理由のない限り、同一の取扱いをすべきである。本件において、被上告会社が前記一の2のとおり本件株主総会前の原発反対派の動向から本件株主総会の議事進行の妨害等の事態が発生するおそれがあると考えたことについては、やむを得ない面もあったということができるが、そのおそれのあることをもって、被上告会社が従業員株主らを他の株主よりも先に会場に入場させて株主席の前方に着席させる措置を採ることの合理的な理由に当たるものと解することはできず、被上告会社の右措置は、適切なものではなかったといわざるを得ない。しかしながら、上告人高橋は、希望する席に座る機会を失ったとはいえ、本件株主総会において、会場の中央部付近に着席した上、現に議長からの指名を受けて動議を提出しているのであって、具体的に株主の権利の行使を妨げられたということはできず、被上告会社の本件株主総会に関する措置によって上告人高橋の法的利益が侵害されたということはできない。そうすると、被上告会社が不法行為の責任を負わないとした原審の判断は、是認することができ、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

上告人佐々木徹の上告について

本件記録によれば、上告人佐々木は、平成五年八月四日に上告受理通知書の送達を受けたが、右送達の日から五〇日を経過した後の同年九月二七日に上告理由書を提出したことが明らかである。したがって、上告人佐々木の上告は不適法として却下すべきである。

よって、民訴法四〇一条、三九九条ノ三、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官園部逸夫 裁判官可部恒雄 裁判官大野正男 裁判官千種秀夫 裁判官尾崎行信)

上告人らの上告理由<省略>

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